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日田 鉄鏡
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■ 名 称: 金銀錯嵌珠龍文鉄鏡 (きんぎん さくがん しゅりゅうもん てっきょう)
  【 国の重要文化財 】

   "錯嵌"(さくがん)とは象嵌(ぞうがん)のことです

■ 年 代: 1世紀〜3世紀 弥生時代

■ 出土地: 大分県日田市日高町 東寺 ダンワラ古墳 (竪穴式古式古墳) 1933年消滅

■ 大きさ: 直径21.1cm、厚み2.5mm

■ 材 質: 鉄 (99%)

■ 装 飾: 金、銀、宝玉

 金 : 純金を24金とした場合 20金 (金84%、銀5%、水銀11%)
 銀 : 970 (/1000) (銀97%、錫2%、鉛0.7%、銅0.3%)

 古代の金の精製は金鉱石に水銀を混ぜ、できた合金を加熱して水銀を揮発させる方法でした。この金に含まれる5%の銀は混ぜられたものですが、11%の水銀はもとの金に含まれていたものではないかと推測されます。
*古代の他地域で装飾に使われた金は良く精製されており、水銀は含まれていません

 赤、青、緑、白色等、数種類の石玉は、まだ分析調査されていませんが、この時代の日本では大変珍しいトルコ石が認められることから、ヒスイをはじめとする高価で希少な宝石も予想されます。なお復元レプリカには、ルビー、ヒスイ、水晶、トルコ石が使われています。


■ 文 様: 

竜をはじめとする多種類の文様が約0.4ミリの細い金線で繊細に装飾されています。また高い技術で、金、銀、石玉が象嵌(ぞうがん)されています。

盤の外側は金のうずまき文様、蕨手文で縁取られています。この文様は、呪術を意味すると考えられており、所有者はシャーマンではないかと推測されます。 竜と虎の文様について


■ 文 字: 長宜◆孫 (◆は欠落)

中央部に金で書かれた文字は、1文字欠落していますが 「長宜子孫」(ちょうぎしそん)であるとされており、中国で秦・漢の時代に流行し、女性に対してよく使われた「子孫繁栄」を意味する吉祥句です。
*吉祥句(きっしょうく): 祈りを込めた、おめでたいお祝いの言葉


■ 類似する古代の鏡:

中国・三国時代(184〜280年)の書に「魏(ぎ)の曹操(そうそう)が金錯鉄鏡(きんさくてっきょう)を持っていた」と書かれていますが、大きさは直径約46cmの大きなものだったようです。

日本から魏へは、239年に卑弥呼が朝貢の使者を送っていることがわかっています。


■ 東寺ダンワラ古墳からの他の出土物

鉄刀、轡、鉄製貝装雲珠(かいそううんじゅ)、鉄製貝装辻金物、碧玉製管玉(へきぎょくせいくだだま)、水晶製切子玉(きりこだま)、ガラス製小玉、勾玉(まがたま)

近辺からの関連のある出土物としては、金錯鉄帯鉤 (きんさくてつたいこう・男性用の鉄製バックル)
*金錯鉄帯鉤の装飾の金にも、11%の水銀が含まれています。


■ 近辺の金鉱:

九州の古代の出土物には豪華絢爛なものが多数あります。その富の豊かさの背景には、黄金の国ジパングと言われた理由、金の産出を外すことはできません。金が出なかった古代の中国にとって、金は最も歓迎される交易品であり、貢物(みつぎもの)であったことでしょう。

この鏡が出土した日田市には、東洋最大規模と言われた鯛生金山はじめ、15の金山の存在がわかっています。また金の精製に不可欠な水銀が大分県内で採掘されていたことは、豊後国風土記(720〜740年)にも記されています。(現在わかっている九州の水銀鉱は大分県のみ)


■ 経 緯:

国の重要文化財に指定されてから43年もの長い間、この美しい鏡が一般国民の知るところとならなかったのは、大変残念なことです。





1933年 昭和8年 大分県日田市日高町 ダンワラ古墳で渡辺音吉氏により発見される。さびた鉄のかたまりであったが、つまみがあったことから鏡と判断し湿気を避けるため、石炭箱に石灰といっしょに入れて三芳小学校に寄贈
1940年代 第二次世界大戦中〜終戦後、展示していた三芳小学校から盗まれる
1960年 昭和35年 梅原末治 京都大学教授が、奈良の古美術商から 「伝・日田出土」の「鉄のかたまり」として購入
1962年 昭和37年 天理大学付属天理参考館で白木原好美教授により表面の研ぎ出しが行われ、金銀玉の装飾が現れる。付着していた石灰粉からダンワラ古墳出土の鉄鏡と認められる。
1964年 昭和39年 国の重要文化財に指定、東京国立博物館に収蔵される
2006年 平成18年 12月 東京国立博物館から九州国立博物館に貸し出し
2007年 平成19年 1月1日〜1月28日 九州国立博物館で展示
2009年 平成21年 10月20日〜11月29日 九州国立博物館で展示


金銀錯嵌珠龍紋鉄鏡


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